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カーボンナノチューブ(CNT)の分散技術:凝集しやすいナノ材料の扱い

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CNT分散が難しい理由

カーボンナノチューブ(CNT)は、導電性、熱伝導性、強度、軽量性などに優れたナノ材料として、電池材料、導電性塗料、樹脂複合材、透明導電膜などの分野で活用が進んでいます。しかし、CNTを材料中で機能させるには、単に添加するだけでは不十分です。CNTが凝集したままでは、期待する導電性や補強効果が出にくく、むしろ欠陥やばらつきの原因になることがあります。

CNT分散の難しさは、ナノサイズであることと、細長いチューブ形状であることの両方にあります。粒子同士が引き合うだけでなく、糸玉のように絡まりやすいため、一般的な撹拌だけでは塊を十分にほぐせない場合があります。そのため、CNTの分散では「凝集を解く力」と「構造を壊さない力加減」を両立させる必要があります。

CNTはなぜ凝集しやすいのか

CNTは直径がナノメートルサイズで、長さはミクロンオーダーに及ぶ細長い構造を持ちます。表面積が大きく、隣り合うCNT同士にファンデルワールス力などの相互作用が働きやすいため、複数本が束になったバンドルや凝集塊を形成しやすくなります。

さらに、CNTは繊維状であるため、単純な粒子よりも絡まりやすい特徴があります。撹拌によって一時的に黒く均一な液に見えても、実際には微細な凝集体が残っていたり、時間経過で再凝集したりすることがあります。見た目の均一性だけで分散状態を判断しないことが重要です。

凝集したCNTは性能を発揮しにくい

CNTは、1本1本が材料中に広く分散しているほど、導電パスや補強ネットワークを形成しやすくなります。反対に凝集塊として偏在していると、CNTが存在する部分と存在しない部分が生まれ、性能が不均一になります。

樹脂複合材では、凝集塊が応力集中点となり、破壊の起点になる可能性があります。導電材料では、CNTが十分にネットワーク化しないと、少量添加で狙った導電性を得にくくなります。CNTの性能を引き出すには、添加量よりも分散状態が重要になる場面があります。

CNT分散で求められる2つの条件

CNT分散では、凝集体をほぐすことと、CNTの長さや構造を守ることが同時に求められます。強いエネルギーを与えれば凝集体は解けやすくなりますが、過度な処理はCNTを切断したり、欠陥を増やしたりする可能性があります。

NEDOの紹介記事でも、CNTの長さを保ちながら良好に分散させることが、母材の性能発現に関わる重要なポイントとして説明されています。つまり、分散工程の目的は、黒く混ざった液を作ることではなく、必要な機能を発揮できる状態でCNTを配置することです。

凝集塊を解くためのエネルギー

CNT凝集体をほぐすには、せん断、衝突、圧力、超音波、遠心力など、何らかの物理的エネルギーが必要です。一般的な低速撹拌では、溶媒全体は動いても、CNTの絡まりを解く局所的な力が足りない場合があります。

一方で、エネルギーを一度に強く与えすぎると、CNTが短くなったり、表面欠陥が増えたりするおそれがあります。分散工程では、最初から最大出力で処理するのではなく、凝集状態を見ながら段階的に条件を上げる考え方が有効です。

CNTの長さと構造を保つこと

CNTの導電性や補強効果は、チューブ構造やアスペクト比と関係します。凝集体をほぐせても、CNTが過度に切断されて短くなれば、材料中でネットワークを作りにくくなります。分散できたように見えても、性能が伸びない場合は、処理条件が強すぎる可能性があります。

産総研の発表でも、CNTに欠陥を生じさせるリスクのある超音波処理などに頼らない分散プロセスの重要性が示されています。分散条件は、分散度だけでなく、CNTの損傷状態や最終物性とセットで評価する必要があります。

強力なGを利用したステップ撹拌の考え方

自転公転式の撹拌脱泡機などでは、容器に強い遠心力をかけながら、材料を流動させて混合・分散させます。強力なGを利用することで、容器内の材料に大きな流れやせん断場を作り、CNTの凝集体を溶媒中へほぐしていくことが期待できます。

ただし、CNTの分散では、単純に回転数や処理時間を増やせばよいわけではありません。凝集塊を解く初期工程、分散状態を整える中間工程、気泡や粗大凝集を確認する仕上げ工程を分け、段階的に条件を設計することが重要です。このようなステップ撹拌は、力のかけすぎを避けながら分散を進める考え方として有効です。

低速予備混合で粉体を濡らす

CNTは軽く、かさ高く、粉立ちしやすい材料です。いきなり高いGをかけると、粉体が容器壁面や液面に偏ったり、ダマの外側だけが濡れて内部が残ったりすることがあります。最初の工程では、CNTを溶媒や樹脂中に無理なく濡らすことを優先します。

予備混合では、CNTを少量ずつ投入する、溶媒や分散剤を先に準備する、粉体の飛散を抑えるなどの工夫が必要です。ここで大きなダマを作らないことが、後工程の分散効率を左右します。初期濡れが悪いと、いくら強い処理をしても粗大凝集が残りやすくなります。

中速から高Gへ段階的に移行する

CNTが溶媒に濡れた後は、段階的にGを上げて凝集体をほぐします。中速域では、材料全体を均一に流動させ、CNTの偏りを減らします。その後、必要に応じて高G条件を短時間かけ、残った凝集体にエネルギーを与えます。

このとき重要なのは、処理強度と処理時間を分けて考えることです。高Gを長時間かけると、分散は進む一方でCNT損傷のリスクも高まります。短時間処理と確認を繰り返すことで、必要最小限のエネルギーで分散点を探りやすくなります。

仕上げ工程で脱泡と再凝集を確認する

CNT分散液は、処理中に空気を巻き込むことがあります。気泡が残ると、塗工、充填、成形、測定のばらつきにつながります。撹拌脱泡機を使う場合は、分散後に脱泡条件を設けることで、液中の気泡を減らし、後工程で扱いやすい状態に整えられます。

また、分散直後だけでなく、一定時間静置した後の再凝集も確認が必要です。良好に見える分散液でも、時間が経つと沈降や凝集が進むことがあります。製造工程での保管時間や使用タイミングを想定し、実運用に近い条件で安定性を確認します。

溶媒・分散剤・濃度設計のポイント

CNT分散は機械的な処理だけで完結するものではありません。溶媒、分散剤、樹脂、CNT濃度、添加順序によって、必要なエネルギーや再凝集のしやすさが大きく変わります。強い撹拌条件を探す前に、液設計を見直すことが重要です。

北海道大学の研究紹介では、CNT表面に分散剤が吸着し、CNT同士の再凝集を抑える考え方が説明されています。また、産総研の発表では、機械学習を活用して溶媒選定を最適化し、超音波処理に頼らない分散プロセスを開発したことが示されています。分散は、装置条件と処方設計の組み合わせで考えるべき技術です。

溶媒との相性を確認する

CNTは表面の性質上、どの溶媒にも同じように分散するわけではありません。溶媒との親和性が低い場合、いくら撹拌してもCNT同士が再び集まりやすくなります。分散液を作る際は、溶媒の極性、粘度、揮発性、後工程との相性を確認します。

塗料やインク用途では、基材への濡れ性や乾燥性も関係します。電池材料では、バインダーや活物質との相互作用も重要です。CNT単体が分散して見える条件でも、実際の配合に入れると凝集する場合があるため、最終処方に近い状態で評価することが大切です。

分散剤は性能への影響も見る

分散剤はCNT表面に吸着し、親溶媒性を高めたり、CNT同士の再凝集を抑えたりする役割を持ちます。一方で、分散剤は最終材料に残る成分でもあるため、導電性、接着性、耐熱性、硬化性、透明性などに影響することがあります。

NEDOの紹介記事でも、界面活性剤は分散には有効でも、母材にとって異物になり得る点が課題として示されています。分散剤を使う場合は、分散性だけでなく、最終製品の物性や工程への影響を確認する必要があります。

CNT濃度は段階的に上げる

CNTは少量でも粘度や流動性に大きく影響することがあります。最初から高濃度で分散しようとすると、材料全体が動きにくくなり、局所的な凝集が残りやすくなります。まず低濃度で分散条件を探り、その後、濃縮やマスターバッチ化を検討する方法が現実的です。

高濃度化する場合は、撹拌中の発熱、容器内の流動状態、投入順序、処理時間を慎重に確認します。粘度が上がると同じ回転条件でも材料にかかる力が変わるため、低濃度で得た条件をそのまま適用できないことがあります。

構造破壊を防ぐための力加減

CNT分散で失敗しやすいのは、凝集を完全になくそうとして過剰な処理を行うことです。CNTは強い材料ですが、無限に強いわけではありません。強いせん断、衝突、超音波、長時間処理によって、チューブが短くなったり、欠陥が増えたりする可能性があります。

分散工程では、分散不足と過分散の間にある最適点を探す必要があります。分散不足では凝集が残り、過分散では構造損傷が増えるため、どちらも最終性能を下げる原因になります。条件設計では、見た目の黒さではなく、物性評価と構造評価を合わせて判断します。

強すぎる処理が性能を下げることがある

強い処理をかけると、粗大凝集は減りやすくなります。しかし、CNTが短くなると、導電ネットワークや補強ネットワークを形成しにくくなります。結果として、分散液は滑らかに見えるのに、導電性や機械特性が期待ほど出ないことがあります。

NEDOの記事でも、メカニカルに強いエネルギーを与える方法では、CNTが切れて長さが犠牲になる可能性があると説明されています。CNT分散では、凝集塊を壊すのではなく、できるだけチューブを保ったまま「ほぐす」発想が求められます。

温度上昇と発熱にも注意する

高G処理や長時間撹拌では、材料温度が上がることがあります。温度上昇は、溶媒の揮発、粘度変化、樹脂の反応、分散剤の吸着状態に影響します。材料によっては、温度変化によって分散状態が変わる場合もあります。

温度管理を行うには、処理時間を短く区切る、休止時間を設ける、容器容量を適正化する、冷却条件を検討するなどの方法があります。CNTそのものだけでなく、溶媒や樹脂の状態を守ることも、安定した分散には欠かせません。

条件は一度で決めず、評価しながら絞る

CNT分散条件は、材料の種類、メーカー、ロット、表面処理、溶媒、濃度によって変わります。そのため、他材料で成功した条件をそのまま使っても、同じ結果になるとは限りません。条件出しでは、G、時間、投入順序、濃度、分散剤量を少しずつ変えて比較します。

特に量産を想定する場合は、ラボスケールでの成功だけでなく、スケールアップ時の発熱、処理ムラ、容器差、作業再現性を確認します。分散工程は、経験だけに頼らず、評価データを蓄積しながら最適化することが重要です。

CNT分散状態の評価方法

CNT分散では、見た目の均一性だけでは評価が不十分です。黒色の液体は、凝集体が残っていても均一に見えることがあります。分散状態を判断するには、粒度、顕微鏡観察、粘度、導電性、塗膜外観、沈降安定性などを組み合わせて確認します。

CERIのような分析機関でも、CNTやCNT複合材料の分析評価が扱われており、材料中でのCNT状態を把握する重要性がうかがえます。研究開発段階では、分散条件と評価結果を紐づけて、どの条件が性能に効いているのかを明確にすることが大切です。

顕微鏡観察で粗大凝集を確認する

光学顕微鏡、SEM、TEM、AFMなどの観察は、CNT凝集体の有無や分散状態を把握するために有効です。粗大な凝集が残っていれば、塗膜欠陥や導電ムラ、機械特性のばらつきにつながる可能性があります。

ただし、観察はサンプル採取や前処理の影響を受けます。一部の視野だけで判断すると、全体状態を見誤ることがあります。複数箇所の観察や、他の評価方法との併用が必要です。量産工程では、簡便に確認できる管理指標も合わせて設定します。

粘度と沈降安定性を見る

CNTが分散すると、液の粘度や流動性が変化します。凝集が残っている場合や、ネットワークが過度に形成されている場合、粘度が高くなりすぎたり、塗工性が悪化したりすることがあります。粘度測定は、工程管理の指標として役立ちます。

また、一定時間静置した後の沈降、上澄み、再分散性も重要です。分散直後に良好でも、保管中に凝集・沈降すれば実用上の問題になります。使用までの時間、輸送、温度変化を想定して安定性を確認します。

最終物性で分散条件を判断する

CNT分散の目的は、分散液を作ることではなく、最終製品の性能を出すことです。導電膜であればシート抵抗や透明性、樹脂複合材であれば強度や伸び、電池材料であれば電極特性など、用途に応じた評価が必要です。

分散度だけを追いすぎると、CNTを傷めてしまう場合があります。反対に、CNTの長さを守りすぎて凝集が残れば、性能が不安定になります。最終物性を基準に、必要十分な分散条件を見つけることが、実用化に近い考え方です。

ステップ撹拌を導入する際の実務ポイント

CNTのステップ撹拌を検討する際は、処理レシピを細かく記録し、再現できる形にすることが重要です。回転条件、処理時間、投入順序、容器形状、充填率、材料温度、脱泡条件を管理しなければ、同じ材料でも結果がばらつくことがあります。

また、CNTは粉体として扱う際の飛散対策や作業者の安全管理も必要です。ナノ材料を扱う工程では、局所排気、保護具、容器密閉、清掃手順など、設備面・作業面のルールを整えたうえで分散条件を検討します。

容器と充填率を固定する

自転公転式の撹拌では、容器形状や充填率によって材料の流れ方が変わります。同じ回転数でも、容器の径、底形状、液量が違えば、CNTにかかる力は変わります。条件出しでは、容器と充填率を固定し、比較できる状態を作ることが大切です。

量産時に容器サイズを変える場合は、単純な倍率換算ではなく、分散状態や温度上昇を再評価します。ラボで得た最適条件は、あくまでその容器・その液量での条件です。スケールアップ時には、再現性確認が欠かせません。

投入順序を標準化する

CNT、溶媒、分散剤、樹脂、添加剤の投入順序は、分散性に大きく影響します。CNTを先に入れるのか、溶媒に分散剤を溶かしてから入れるのか、樹脂を後添加するのかによって、ダマの発生や粘度変化が変わります。

作業者ごとに投入順序が違うと、同じ装置条件でも結果が変わります。標準作業では、投入順序、投入速度、予備混合時間、容器壁面への付着処理まで決めておくと、ばらつきを抑えやすくなります。

小スケールで安全側の条件から始める

CNT分散条件を探索する際は、いきなり高G・長時間条件から始めるのではなく、小スケールで安全側の条件から始めるのが基本です。低速予備混合、中速分散、短時間高G処理、脱泡、評価という流れで、段階的に条件を詰めていきます。

この方法なら、過剰処理によるCNT損傷や発熱を避けながら、必要な分散エネルギーを探れます。特に新規材料では、最初から最適条件を当てるのは難しいため、評価と条件変更を繰り返す前提で進めることが現実的です。

まとめ:CNT分散は「強く混ぜる」ではなく
「壊さずほぐす」技術

CNTは高機能なナノ材料ですが、凝集しやすく、分散状態によって性能が大きく変わります。凝集塊が残れば導電性や補強効果が不安定になり、過度な処理を行えばCNTの長さや構造を損なう可能性があります。

強力なGを利用したステップ撹拌は、CNTを段階的に濡らし、ほぐし、整え、脱泡するプロセスとして有効です。ただし、重要なのは最大出力で処理することではなく、材料特性に合わせて必要十分なエネルギーを与えることです。

CNT分散の条件設計では、溶媒・分散剤・濃度・投入順序・容器条件・温度管理・評価方法を一体で考える必要があります。最終的には、分散液の見た目ではなく、導電性、強度、塗膜品質、安定性などの最終物性で判断することが、実用化につながるCNT分散技術の基本です。

当メディアについて

撹拌脱泡機を使用する製造現場や研究・開発の現場では、「量産が難しい」「処理に時間がかかる」「高粘度素材がうまく混ざらない」など、さまざまな課題が生じていることと思います。
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